この記事でわかること
- エンバーマーの仕事内容と職業の全体像
- エンバーマーなるには?
- 社会人がエンバーマーなるために乗り越えるべき壁
エンバーマーの仕事内容と職業の全体像
エンバーマーとは、亡くなった人の遺体を消毒・保存・修復する「遺体衛生保全」の専門家です。
遺体を清めるだけの仕事ではありません。
血管を切開して防腐・殺菌用の薬液を注入し、体内の血液を入れ替えるという、医療行為に近い高度な処置を行います。
エンバーマーが行う主な処置は、大きく3つに分けられます。
- 防腐処置:薬液を血管に注入し、遺体の腐敗を防いで衛生状態を保つ
- 長期保存:ドライアイスを使わずに、常温で数週間から最大1ヶ月程度の保存を実現する
- 修復作業:事故などで傷ついた顔や皮膚を、特殊なワックスや素材で形成して生前の姿に近づける
この修復作業は「レストレーション」と呼ばれ、数ミリ単位の精密な作業が続くこともあります。
現役のエンバーマーが事故遺体の顔面修復に12時間を費やした、という話はこの仕事の過酷さと誠実さを象徴しています。
似た職業に見える「納棺師」や「看護師」との違いも整理しておきましょう。
| 職種 | 処置の範囲 | 保存効果 | 資格 |
|---|---|---|---|
| 看護師 | 亡くなった直後の清拭・整容(エンゼルケア) | なし | 国が認定する技能審査制度 |
| 納棺師 | 湯灌・死後化粧・棺への納棺 | ごくわずか(ドライアイス併用) | 任意の民間資格 |
| エンバーマー | 血管処置・防腐・損傷修復まで遺体内部に及ぶ | 高い(常温で数週間) | 業界団体IFSAの認定が実質必須 |
納棺師の仕事が「外見を整える儀礼的な作業」であるのに対し、エンバーマーは遺体の内部にまで処置を施す点で、医療・科学の専門知識が求められます。
看護師が行うエンゼルケアも大切なケアですが、長期間の保存効果は生まれません。
日本は火葬率がほぼ100パーセントという世界的にも珍しい国ですが、高齢化の進展で火葬場が混雑しており、亡くなってから火葬まで1週間以上待つケースが増えています。
その間、遺体を衛生的に保ちながら故人の尊厳を守る手段として、エンバーミングへの需要は年々高まっています。
家族葬が広まった今、参列者は少なくても「生前のような姿でゆっくりお別れしたい」という遺族の気持ちに応えられる職業として、エンバーマーの役割はますます重要になっています。
エンバーマーなるには?
エンバーマーになる道は、国内に1校しかない専門学校に2年間通い、卒業後の認定試験に合格するという、ほぼ一本道のルートです。
独学や通信教育で取れる資格ではなく、実技を含む教育課程を修了することが絶対条件になっています。
IFSA認定教育機関でしか資格を取得できない
現在、国内でエンバーマー資格を取得できる学校は、神奈川県平塚市にある日本ヒューマンセレモニー専門学校のエンバーミング学科のみです。
以前は複数の認定校がありましたが、休校となった学校もあり、実質的にこの1校に志願者が集中しています。
2026年4月入学の募集は2025年12月の時点ですでに定員に達して終了しており、入学を考えるなら1年以上前から動き出す必要があります。
アメリカで葬祭専門職の資格を取るルートも存在しますが、言語の壁と費用の高さから、国内の専門学校経由が現実的な選択肢として定着しています。
入学試験のレベルと合格難易度
入学試験で出題されるのは、国語・英語・理科など高校卒業程度の基礎的な内容です。
大学卒業から10年以上が経っていても、市販の参考書で復習すれば十分対応できるレベルであり、学力そのものよりも職業への適性と意欲が選考の中心に置かれています。
医療・福祉の現場で積んできた経験は、面接においてむしろ大きなアドバンテージになります。
選考官が確かめたいのは、解剖生理学や化学といった理系の専門科目を拒否感なく学べるか、2年間の全日制課程をやり遂げる覚悟があるかどうかです。
社会人のブランクは、思うほど合否に影響しません。
資格試験の合格率と出題内容
IFSA認定試験は、専門学校の卒業年次にあたる3月に年1回だけ実施されます。
出題範囲は、2年間で学ぶ解剖学・公衆衛生学などの座学に加え、実際の処置手順への理解を問う内容も含まれます。
合格すると初めてエンバーマーとして登録され、IFSAに加盟するエンバーミングセンターで正式に働けるようになります。
法律上の国が認定する技能審査制度ではなく民間資格ですが、主要なエンバーミングセンターへの就職では事実上の必須条件として扱われており、現場での信頼と重みは国が認定する技能審査制度に匹敵します。
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社会人がエンバーマーなるために乗り越えるべき壁
エンバーマーを目指す社会人の前に立ちはだかる現実的な壁は、主に「通学」と「お金」の2つです。
どちらも決して小さな問題ではありませんが、国の制度を正しく活用すれば、乗り越える道は確かにあります。
全日制通学と仕事の両立
日本ヒューマンセレモニー専門学校のエンバーミング学科は、2年間の全日制です。
夜間や週末のみ通うコースは存在せず、在学中は仕事を辞めるか大幅に勤務を減らす必要があります。
加えて、募集の締め切りが非常に早いことも見落とせません。
2026年4月入学の募集は2025年12月の時点ですでに定員に達して終了しており、退職のタイミングを入試スケジュールに合わせなければ、次のチャンスまで1年待つことになります。
「いつか転職しよう」という気持ちのまま情報収集を後回しにすると、スタートが大きく遅れてしまうという現実があります。
学費の負担
2年間の学費は総額で約250万円、生活費を含めると500万円から600万円程度の資金が必要です。
これは社会人にとって重い負担ですが、厚生労働省が指定する専門実践教育訓練給付金という制度を活用すると、学費の自己負担を大幅に減らせます。
在学中から学費の50パーセントが支給され、修了後に資格を取得して就職すると最大70パーセント、さらに賃金が上昇した場合は最大80パーセントまで還付される可能性があります。
給付金は後払いのため初期資金は別途必要ですが、条件を満たせば実質的な学費負担を数十万円台に抑えられる計算になります。
また、45歳未満で離職して全日制で学ぶ場合は、失業給付の約8割が支給される教育訓練支援給付金で生活費の補填も検討できます。
エンバーマーなるための養成校を選ぶ際のポイント
現在、国内でエンバーマー資格を取得できる学校は実質的に1校のみです。
選択肢が限られているからこそ、入学前に通学環境・カリキュラム・就職実績・募集スケジュールを自分の目で確かめておくことが、入学後のミスマッチを防ぐ最大の対策になります。
通いやすいところを選ぶ
唯一の認定校である日本ヒューマンセレモニー専門学校は神奈川県平塚市にあります。
2年間の全日制のため、遠方に住んでいる場合は引っ越しも視野に入れる必要があります。
通学時間が長いほど体力的・経済的な負担が積み重なります。
オープンキャンパスに実際に足を運んで通学ルートや周辺の生活環境を自分の目で確かめることが、2年間を乗り切るための最初の判断材料になります。
カリキュラムや実習内容で選ぶ
エンバーミング学科では、解剖学・公衆衛生学・化学といった座学に加え、実際の処置技術を習得するための実習科目が設けられています。
エンバーミングは知識を頭に入れるだけでは通用せず、手技の正確さが求められる仕事です。
どのような実習施設が整っているか、どんな経歴を持つ教員が指導しているかは、技術の習得スピードに直結します。
オープンキャンパスで実習室を実際に見学し、授業の雰囲気を確かめることを強く勧めます。
卒業後の就業実績で選ぶ
資格を取得したあとに確実に働ける職場へつながるかどうかは、学校と業界とのパイプの太さに左右されます。
国内にはIFSAに加盟するエンバーミングセンターが約70箇所あり、大手葬儀社が直営するセンターと、地域の葬儀社から処置を受託する専門会社の2種類があります。
前者は給与体系や福利厚生が安定しており、後者は多様な症例に触れる機会が多く技術を素早く磨けるという特徴があります。
パンフレットや個別相談で卒業生の具体的な就職先を確認しましょう。
募集要項で見落としがちな入学条件の注意点
最も見落とされやすいのが、募集締め切りの早さです。
2026年4月入学の募集は2025年12月の時点ですでに終了しており、1年以上前から行動しなければ間に合わないのが現実です。
退職の時期と出願スケジュールを合わせるには、早い段階での計画が必要になります。
学力以外の要素で評価される社会人入試や推薦入試などの選考枠があるかどうかも、早めに問い合わせて確認しておきましょう。
エンバーマーの仕事の将来性
葬儀の規模が小さくなっても、エンバーマーへの需要は衰えていません。
故人との最後の時間をより大切にしたいという遺族の気持ちが強まっているからこそ、この仕事の価値は年々高まっています。
家族葬が増加している
家族だけで執り行う家族葬が広まると、エンバーミングの需要は下がると思われがちです。
実際にはその逆で、参列者が少ないぶん故人と過ごす時間の質が重視されるようになり、ドライアイスで冷え固まった状態ではなく生前のような表情でゆっくりお別れしたいというニーズはむしろ強まっています。
高齢化の進展で火葬場の混雑が続き、亡くなってから火葬まで1週間以上待つケースが増えているという背景も後押しています。
その待機期間を衛生的かつ尊厳ある状態で過ごすための手段として、エンバーミングは社会に不可欠な役割を担いつつあります。
キャリアアップが見込める
エンバーマーの年収は、経験を重ねるほど着実に上がっていく職種です。
専門学校卒業直後は300万円から400万円程度ですが、難しい処置を一人で担当できるようになる3年から7年目には450万円から600万円の水準になります。
センター長や技術指導を担う管理職クラスになると700万円から800万円以上に達するケースもあります。
血管処置や損傷修復という他の職種では代替できない技術を持つ専門職であるため、景気の動向に左右されにくく、長期にわたって安定した収入を期待できるのも大きな特徴です。
まとめ
エンバーマーになるには、国内唯一の養成校での学びとIFSA認定資格の取得が欠かせないステップです。
全日制の通学や費用面が壁に感じても、給付金制度を賢く活用すれば経済的な不安は最小限に抑えられます。
医療・福祉の現場経験は、再進学の試験や面接で有利に働く大きな強みとなるでしょう。
故人の尊厳を守る高度な技術は、葬儀の形が変わる今こそ強く求められています。
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